「あなた、お話が………」

 優しさが集って形になったやうな、儚げで美しい妻が思い詰めた顔、小さな声でこう切り出し、そのたびに鯉伴は先駆けてて、そういやぁ、と、妻の奥ゆかしい声に気づかなかったふりをしたものだった。

「そろそろ、また玉苔寺の祭りの季節だな」
「え、ええ、そうですね。もう、そんな季節です」
「なんだい、人間の祭なんざ、飽きたかい?」
「いいえ、そんなことは」
「おれは飽きないぜ。お前さんと一緒にそぞろ歩くのは、いつまでたっても愉しいモンだ」

 月の夜、縁側から枝垂れ桜を望みながら、妻に酌をさせこれを一息に干した鯉伴は、それでも妻がまだ、浮かぬ顔をしたままであるのを、気づかぬ振りのままにしていた。

 子が生まれぬのを、屋敷の者どもが噂しているのは、知っていた。
 彼女がそれで何やら、思い詰めているのも知っていた。
 聞きたくなかった。
 口を開けば、別れの言葉を耳にしそうで、彼女が小さな声で話を切り出すたび、先を封じた。

 己等に許された長い時を、今まで歩んできたように、これからも共に歩んで行ったなら、その先できっと子に恵まれることもあるだろう。
 妖なのだから、急がずとも、騒がずとも、ゆっくりと自分たちだけの時を刻んでゆけばいい。
 そう、思っていた。
 やがて彼女もそう気づくだろうと、思っていた。

 伝えてやればよかった、そんな事ぐらい、なんだと。
 子供のために娶ったのではない、さぞかし美味い実がなるだろうと踏んで娶ったわけではない、供に歩んで行きたいと思ったから、その花一輪を愛したから、娶ったのだと。

 そんな、たった一言で良かったはずだ。
 たった一言が伝えられなかったばっかりに、言えないまま沈んだ言葉ばかりが、かつての妻を向こう岸へ送る踏み石になってしまった。
 あるいはそれ等の言葉は、無意識のうちの傲慢がなせる、業であったかもしれない。

 例え一度見失ったとしても、彼女を追いかけられる、見つけられる。
 空行く鳥に尋ねれば、行く先など知れているのだから、と。

 驕ってはいなかったか。
 心を尽くしているつもりで、隠してはいなかったか。





 七重八重 花は咲けども山吹の みのひとつだに なきぞかなしき





 あの時と同じ焦燥に駆られるのは、己がまた何かを、己の言葉足りなさがために失おうとしているからではないのか。
 若菜の小さな背を追えなかったのは、引き留められなかったのは、今は見失ったとしても追いかけられると、人の足などたかが知れていると、無意識に驕っていたからでは、ないのか。

 己の手を振り払った若菜を、鯉伴は追わなかった。
 来るべきときが来た、それだけなのかもしれないと思えば、追えるはずがなかった。
 何やら様子がおかしいとは思ったけれど、それだって、別れを惜しむ子供のむずがりかもしれない。
 すると鯉伴にできるのは、せいぜいカラスに行方を追わせるぐらいのものだった。
 行方を追わせ、住処をつきとめ、そのうちふらりと遠出のつもりで赴けば、きっとあの陽のような向日葵のような笑顔を向けてくれるだろう、己の嫌な予感が、ただの考え過ぎであったのだと、そのときに今の自分を笑えるようになるに違いない。

 このように考えていた鯉伴のもとへ、カラスはその日のうちに、知らせを持ってきた。
 若菜の次の住処がどこであるかを知らせるものとばかり思っていたのに、カラスどもは口を揃えてこう言う。

「総大将、妙なのです。若菜さまの行方が知れません。完全に、見失いました、西に赴かれたのは、確かなのですが」

 そこで鯉伴は、あれは若菜を失う場面だったのだと、初めて気づいた。
 千代を失ったように、山吹を失ったように、今、若菜も失ってしまったのだと。

 伝えたつもりになっては、いなかったか。
 今が最後ではなくて、己の長い命に甘え、次に会ったそのときにと、後回しにしては、いなかったか。
 本当に伝えるべきことを、見失っては、いなかったか。










 鯉伴には、わからない。
 答えは沈んだままだ。
 暗い暗い心の海に、沈めたままだ。

 そのまま、前にも進めず後ろにも引き返せず、数日が過ぎた。

 若菜の幼さばかりを言い訳にして、愛しさの理由も、あの笑顔を側に置いておきたい理由も、押しつけるばかりの幼い口づけのせいで、背を追えなくなった理由も。
 ばかだなぁ、ファーストキスとやら、いただいちゃったぞ、こんなおっさん相手にいいのかよと、笑って茶化してうやむやにしてしまえばよかったものを、あの時、どうしても、追えなかった。

 暗闇ばかりが広がる心の海を、枝垂桜がはらはらと涙をこぼす岸辺から、鯉伴は途方にくれたように見つめる。
 沈んだままの答えを探そうとして、見つけるにしても目の前の水は暗く、深く、広く。
 宝物の小石を沈めてしまった子供のように立ち尽くして、ただ、見つめる。

 闇の中で光るのは、枝垂桜の花びらのみ。
 これを頼りに、水面に映る己の姿を、見つめるでもなくぼんやりと瞳に映していると、水面に映るあちらの鯉伴が、ふんと鼻で笑ってこう言った。





「ぬらりくらりとしているつもりで、嘘ばっか。
 だから逃げられちまうんだよ。てめぇが本気で口説いてねェんだ、あちらさんだって本気で応えちゃくれねェぜ。
 いつかまた会おうと約束しても、人の季節は短い。
 お前の気が向くのを、待っていてなんぞくれないと、わかってるだろうに」





 水面に映るあちらの鯉伴は、現の世界で鏡をのぞき込んだ己とは、少し違う姿形。
 昔ながらの少年のような顔立ちで、千代と隣あって笑い合ったあの日の、まだ人に近かったあの頃のまま、こちらをあざ笑っているのだった。
 遠い昔に鯉伴が捨ててしまった人の姿、一家を背負うために捨ててきたものを全部拾い集めただけのもののくせに、要らぬものとして捨てたはずの結晶は、何故だか、眩しい。
 妖気の一つも身に帯びぬ、まるで人間そのものの、弱い姿であるくせに。

 畜生めがと、鯉伴はあちらを睨み返す。





「わかってるさ。それが人だろう。妖とは違う。それが、人なんだ。あいつは自分からさよならしに来たんだ、おれの手を払ったんだ、それをどうして、まだここに居ろなんぞと言える。おれは妖だ。あいつと一緒に時を刻んではやれねぇ」
「けど、おれは人だぜ」
「おめぇとおれは、違う」
「違わねぇ。おめぇは、おれだ。だからわかる。何が友達だ、何が力になりてぇだ。おめぇは長い時を生きて、半妖出の妖になったつもりかもしれねぇがよ、おれにはただお前が、時の重みの分だけ臆病になったようにしか、見えねぇよ」
「好き勝手言いやがって」
「嘘つきより、マシだよ」
「消えろ。てめぇの御託は聞きたかねぇ」
「言われなくてもそうするさ。ちょいと出かける用事ができちまった」
「はぁ?年がら年中引きこもりが、どこへ行こうって言うんだい」
「お前が足を竦ませているうちに、いくらかあの子を探しておくよ。気が向いたら、くればいい」
「カラスどもが見失ったんだぞ」
「おやおや、これは異なことを仰せだ」





 水面の向こうの、もう一人の鯉伴は、予備の草鞋を肩にかけ、網笠を被って手甲脚絆の出で立ち。
 すっかり旅支度を済ませた様子で、からからと笑った。
 少年の日のまま、外の憂いも悲しみも、全て水面のこちら側の己に押しつけてきたくせに、いやだからこそ、こちらを見つめ返す瞳はあの頃のまま、きっと千代が愛したあの頃のまま、輝いていた。





「奴良組の二代目総大将殿は、二本もある足の使い方をお忘れになってしまったらしいや。こりゃあ、もう一度守役が必要かねェ。はいはいからやり直したらどうだい?それじゃ、妖の鯉伴殿、おれぁこれにて失敬」





 ゆらり、風も無いのに湖面がゆらめいたと思えば、鯉伴がその後どれだけ水面を覗き込んでも、己の姿は映らない。
 人の寿命など、とうの昔に尽きたくせに。
 紙きれ一枚のような、蜉蝣のように弱く薄っぺらな存在のくせに。
 妖の己がいるからこそ、まだ心の岸辺に宿っているだけのくせに。
 それが肉体から抜け出して、一体どこへ ―――





「どこへ行きやがった ――― いや、そうじゃないな」





 心の闇の、湖面の岸に。

 目を開けば、現の枝垂桜がはらはらと、江戸の頃から変わらぬ涙を零し続ける、庭先に。

 一人取り残された鯉伴は、その薄っぺらな存在が抜け出て行った分だけの気だるさを感じつつ、柱にもたれかけていた身を起こして、ふるふると、頭を振った。
 己の肉体を蹴って飛び立っていった、妖の己に宿っていた、人の己の魂魄を追いかけるように、視線が西の空へと泳ぐ。





「身一つでどこへ行こうと自由、それがぬらりひょんだ。
 なんでぇ、てめえの方がよほど、妖怪らしいじゃねーか」










 長い長い時の中、幾度も出会いと別れを繰り返し、これを避ける術はついぞ、見つからなかった。
 泣いても喚いても、人の寿命は短く。
 ただ、すれ違うようにして、皆が笑って、先へ往く。
 それじゃあ失敬、お先にと、先刻、鯉伴の内側からふらり抜け出て行った、彼のように。

 そのうちに臆病になって、ただ一言を、言うに言えなくなっていた。
 人は弱いものなのに、どうしてそんな風に強いのか、ただただ不思議に思うようになった頃、嗚呼、己は人でありたいと願いつつ、ついに妖になったのだなと、理解にいたった。

 しばらく、枝垂桜の揺れる枝を眺めた後、夕暮れに向かって。
 鯉伴もふらり、立ち上がった。

 例え、一人道行きであろうと。
 相手が実の父親であろうと。

 それがなんだ、それがどうした。
 あの年になるまで放っておいたくせに、あつかましく父親面しようという男に、本気でこの先の彼女の人生を任せてしまうつもりか。
 鯉伴にとって、自問するまでもない。

 かつて人の心がもっと身近にあった頃、その心のままに荒ぶり、怒り、嘆き、刀を振るったはずだ。
 白状すれば鯉伴は、その心が先んじて旅立ってしまうほど、あの娘を、恋だとか、愛だとか、そういう理屈で汚すのも忌まわしく感じるほどに、想っていた。

 ちょいとお願いがありやすがお宅の娘さん、手が届かないほど遠くへ連れていくのは、ご遠慮いただけませんかねぇと、無理を通すつもりでいたので、己から分かれた幽鬼を追って今まさに、人知れず姿を消そうと、していたのだが。

「二代目、二代目ぇーッ!」
「なんだよ首無ィ。出鼻くじくなって。悪いがおれぁこれからしばらく留守にする。三下どものシマ争いだの、新参者どもへの睨みだの、そういうこたぁ、しばらくおめェらに任せっから………」
「そういうんじゃねぇですって。若菜さま。若菜さまの家の、ほら、なんて言いましたっけ、身元引受人の人が、すげぇ形相で屋敷に乗り込んできて」
「は?セツ子おばさん?」
「ええ、その女がですね、この屋敷に乗り込んできたんです」
「って、え、なんで?」

 若菜の身内とは言え、ここは妖怪屋敷だ。
 境界が曖昧な子供ならばいざ知らず、大人がひょいと入ってこられる場所ではない。
 ここは、ぬらりひょんの《畏》の中、人知れず在る異界。
 いつでも遊びに来いよと招かれた者自身や、約束の証を持つ者ならまだしも、いくら身元引受人だとて、ここが妖怪屋敷だと知らぬ、信じぬ者の目には、映らぬ場所だと言うのに、何故。

 鯉伴の戸惑いなど何のその、話題のその人は何とパジャマ姿に上着を直接着込んだ姿で、奴良家の庭先に姿を現したのである。

 あまりのことに、小物どもも目を見開き、おっかなびっくり遠巻きにしつつ、しかし女の様子が何だかおかしいので、「おい、おばちゃんよ、その足、大丈夫かい?引きずってっけど、怪我してんじゃないのかい?」「人間ってのは、パジャマで外歩くのなんざみっともないんじゃなかったんかい?」などと声をかけている。
 女はこれに驚きはするがそれよりも、そんなことに構ってはおれぬのだとばかり、何かを探すようにあちこちを見回し、ついに視線の先で、鯉伴をとらえた。

 本当に、本当に ――― いた。

 女はそう呟き、崩れ落ちるようにその場に座り込む。
 鯉伴と首無が見つめる先で、かの女が言うことには。

「お、お、お願い、します。う、うちの子を、お、お願い、お願いです、少しでも哀れと思ってやってくれるなら、た、たすけてやってください、二代目さん……!」

 妖怪屋敷の恐怖にふるえながら、しかも見ればあちこち怪我もしている。
 片足は奇妙な方向へ曲がっていた。
 只事では、無い。

「まあまあ、落ち着きなよ、ねぇさん。たすけるって、どういうことだい。あいつは、実の親が見つかって、そこに行ったんじゃなかったのかい?あいつ、数日前に、ここに挨拶に来たぜ」

 怪訝には思うも、二代目というのは若菜から話に聞いていたのだろうかと思い至った鯉伴。
 ともかく落ち着けと、彼女を縁側に座らせようとするのだが、この奇妙な来客はいっこうに座ろうとせず、むしろ二代目の胸元にすがるように、お願いします、お願いしますと拝み続けるのだ。

 その手に何かが握られているのを、鯉伴は見つけた。

「……こいつは ――― ?」
「それは、私の祖母が私にくれたもので。うちの身代なんて落ちぶれて、身代なんてとっくにないけど、それは、孫の中でお前が一番、妖怪話を信じてくれたからって ――― 祖母も、自分の母から貰ったもんなんだって ――― ここらに住む妖怪さんたちが、うちのご先祖のところに嫁に来た娘さんに、下さったものなんだって。
 昔はそういう風に、妖と人でも、縁をつむいで友達になれたんだ、って ――― 」

 古びた簪だった。
 よほど大事に扱われてきたのだろう、ところどころ蒔絵がはがれかけてはいるものの、あしらわれた真珠も、瑪瑙も、あの日と同じ輝きを、放っていた。

 黒漆の、簪。

 人と妖、かごめかごめと手を繋いだあの日は遠く、遥かな向こう側。

 将軍様のお膝元から、帝都へ、東京へ、目まぐるしくかわってきた時代の波の、向こう岸へ。

 けれど ――― けれど。

 その時を超えて、今ここにあるのは、ただ古びた簪、それだけでは無いはずだ。

「 ――― 《困ったことがあったら》と、うちの祖母は言ってました。頼ってごらん、友達だからって。だから、だから私 ――― ああもう、どうしたらいいのかわからなくて ――― 閉じ込められてた病院の窓から飛び降りて、あとは無我夢中で、家ん中ひっくり返して、これを捜し当てて ――― どうか、どうかたすけてやって下さいよぅ、主さん。あの子は、若菜は、血の繋がりこそないけど、私の娘なんです。いい子なんですよ、本当に、いい子なんです。何一つ、こんな目に合わされなくちゃならないような、悪いことなんてしちゃいないんです。だから、だから ――― 」
「なんだ、あんたぁあの呉服屋の系譜かい?そりゃあ、ここにも入れるだろうなァ、たしかにこの簪を贈るとき、嫁にいく姉ちゃんに、あいつとおれと、約束したもんさ。困ったことがあったなら、きっと頼れ、約束すると。……わけ、聞こうか」

 あの日、突然やってきて狼藉を働いた、男ども。
 身なりは良いが、有無を言わさぬ物言いや上着の内側に隠した鋼の感触などは、どう考えてもカタギではなかったこと。

 若菜が、とある街の名士の娘であった事実。
 しばらく彼女を、見失っていたこと。
 血の繋がった父親が、彼女を捜していたこと。
 お迎えに参りました、お嬢様。
 最初は慇懃に、あの男たちは彼女を迎えようとしたのだ。

 そう言われても何がなにやら。
 若菜には父の記憶も母の記憶もない。
 キナ臭さを感じた彼女も、とにかく今はお引取りいただいて、後日改めて正式に、公的機関にも相談した上で、と申し上げたところ、押し込みのような真似をされ、がつんと一つ殴られた。
 目を覚ますとそこは病院の一室で、付き添いという名の見張りがおり、彼女はその隙をついて今日、窓から飛び降り逃げてきたのだった。
 家に帰っても、若菜の姿はなかった ――― 連れ去られてしまった。どこか、遠くへ。

 初老に差し掛かったその女は、全てを話し終えると、ぐったりと体を弛緩させて、気を失ってしまった。
 同じ縁側に座っていた鯉伴が、ぷかりと煙管をやって、片目をつぶって頷いたのを見届けて、安堵したのだろう。

 対して鯉伴は彼女から全てを聞き届けると、小物どもに彼女の手当てを命じ、ゆっくりと立ち上がった。

「 ――― 二代目」
「総大将」
「俺たちも、行きますぜ」
「無論、拙僧も」

 既にあの少女との縁を、浅からぬものと想う奴良屋敷の妖怪たちは、女の話を聞くや、それぞれの目に物騒な燐光を燈らせて、二代目の一声を、待つ。
 彼等の主は、既に長ドスを握って肩をぽんぽんとやりながら、遠く西の空を見つめていた。

「ああ ――― そうだねぇ。おれも、丁度、そうしようとしてたところなんだわ。ちょうど良くお題目が転がり込んで来てくれたのには驚いたが、なァおめぇら、もしその理由が無かったとしても、おれは行くつもりだったって言ったら、そんときゃ、どうしたい?」

 たかが人間の少女一人に、どうして、と。言ったろうか。
 人間を襲い人間の少女を奪うなど、この土地を追われる原因にならぬだろうか、と。怖れただろうか。

「愚問ですよ、二代目。あの御方は既に、奴良家になくてはならぬ御方です」
「そうですとも。あんなに分け隔て無くにっこり笑ってくださる御方、なかなかいらっしゃいませんよ?それを泣きながら行っちゃって、可哀相に」
「若菜さまがいらっしゃると、二代目の機嫌がいいですしなぁ。末永く、と願いたくもなるってもんです」
「うむ……悪戯癖は困りものですがな」
「黒は自分のエロ本に落書きされたの、根に持ってるだけでしょー」
「な!か、河童!あれほどバラすなと……!」
「そんな約束してたっけー?」

 途端、賑やかになった一同に、鯉伴も低く笑い、愚問を悟る。
 そうだよな、と、彼等に応じるように、あるいは独り言のように、呟いた。



「おれも、お前が好きだよ、若菜。
 年がどうだとか、人と妖だとか、そういうのはとりあえず抜きにして。
 追いかける理由は、取り返しに行く理由は、お前を泣かせたままにしちまった、それだけでいいよな?」



 人と妖、かごめかごめと手を繋いだあの日は遠いが。



 お前の手を、もう一度握りたいと、願ってもいいかい。









...気 縁 万 丈...
祈る相手が見つからない。そう嘆くより先に、一緒に笑い合った相手を、思い出しておくれよ。










アトガキ
リクオが夜と昼で話してたりしたんだから、父子だもの、同じことがあったっていいんじゃないかとか言ってみる。
そしてこの時の二代目はまだ、手を繋ぐ以上のことは考えていませんよ。本当だよ。