世間はドラゴン●エストブーム。
 若菜は興味がなかったのだが、超年上なくせに(何百歳だったとしても、歳の後に『児』をつけたくなるのは内緒だ。)、超新しい物好きの彼氏にして未来の旦那様が(ここは自慢。)、ほくほくしながら列に並び(ぬらりひょんなんだから、ちょっとぐらいズルすればいいのに)、購入してきたので、折角だからお泊りがてら、屋敷の皆とわいわいやりながらプレイしてみた。
 隣で見ていたり、かわりばんこにコントローラーを握らせてもらいなどしながら見ていたのだが、このストーリーという奴が、中々よくできている。

 魔王vs勇者の構図はよくありがちなのだが、実はこの魔王、話せばわかりそうなひとなのだ。
 今までの、いかにも闇の世界が大好きです、人間が意味もなく嫌いです、というタイプではなくて、彼が人間を嫌うのは、彼が大事にしているエルフのお姫様を、人間が苦しめようとするからなのだ。そのエルフのお姫様は、流した涙がルビーになるという、素敵設定付。
 あと、今までの魔王様がいかにもな化け物であったのに対し、このお話の魔王様は、人とほぼ同じ姿で、吟遊詩人として人の中で旅ができてしまうほど。
 ついでに、村娘の話では、ちょっと格好いいらしい。

 しかし人間たちが、エルフのお姫様のルビー欲しさに、心根が腐った人間が彼女を追い詰め、ついに殺してしまうと、魔王様はとうとう世界に絶望して、言葉の通じない真の化け物に身を変じてしまうのである。

 確かに魔王は、お姫様のためとは言え、色々悪いことをしたようだ。
 天空の血を引く勇者が現れ、いずれ魔王を倒すだろう、そんな予言があったので、子供たちを手下に浚わせたり、邪魔な人間を浚ったり殺させたり、挙句に勇者が育った隠れ村を探し出して(自分から吟遊詩人に化けて単身探るなど努力して)、その村の者たちを皆殺しにしてしまったりもした。
 勇者の幼馴染のエルフの少女が、そこで勇者に姿を変えて魔王に殺されてしまったので、自動的に、勇者は魔王を殺さなくてはならなくなった。

 結局魔王は、自分の体をその名に相応しい化け物に変えて、勇者たちに倒されてしまう。
 冒険の途中で、勇者視点からも、どうやら魔王は、魔王を疎ましく思っていた参謀に裏切られて、エルフのお姫様が人間に殺されたのも、その参謀がけしかけたことらしいとわかるのだが、勇者たちは結局それを魔王に伝えることもできずに、終わってしまうのである。
 勇者も、誰も居ない故郷の村に帰る。
 しかしそこで、誰が起こした奇跡なのか、幼馴染のエルフの少女だけはよみがえり、大団円、というところで、話は終わる。

 お話なんだから仕方ない。仕方ないんだけれど、なんだか釈然としない。
 お話が終わって、すっかり勇者視点の奴良家の小妖怪たちや魑魅魍魎の主が、よかったよかった、さあメシにするかと言っている中で、若菜はむうと唇を尖らせたままだ。

「何が気に食わないんだい?」
「だってあれじゃあ、魔王様とエルフのお姫様が可哀相。ひどいよ」
「や、だって、魔王様は色々、悪いことしてやがんぜ?」
「魔王様が直接手を下したのって、勇者の村の人たちくらいでしょ?それ以外は、例えば格闘家のお姫様のお城の人たちや、王宮戦士が捜してた子供たちは、ただ浚われてただけだったから、ちゃんと家に帰ってきたよね。あと殺されたのは、踊り子さんと占い師の姉妹のお父さんだったけど、あれだって手下が勝手にやったことでしょ?魔王様はわりと、紳士だったと思う」
「そうかぁ?」
「酷いって言うんなら、勇者のお父さんとお母さんを引き離した挙句にお父さんを雷で殺しちゃった神様の方が、酷いんじゃない?」
「あー……まァそこは、掟を破ったからっていう……」
「掟だと良くて、誰かを守るために犯す罪だってわかってて、それでも、って決めるのは、悪いことなの?同じ人殺しなのに?何かやだ。私、このお話だと魔王様が一番好き」

 いつもにこにこ、太陽のような若菜が、今日はぷっくりと頬を膨らませているので、何が彼女の機嫌を損ねたやらわからぬ二代目は、「いやこれはただのお話だし」「勇者が勝って、魔王が負けるってのが、セオリーってもんだし」などと言葉を尽くすのだが、若菜の頬は膨れたままだ。
 そこで溜息をついたのは、若菜の隣がすっかり定位置の、火の玉小僧である。

「はァ、いつまでたってもわかってねぇなあ、鯉伴坊やはよぉ。わかってやれよ、魔王の花嫁になろうっていう娘の、女心くらいよォ」
「え?あー……え、そういうこと?女の子ってそういう可愛い見方しちゃうの?!」
「んもー!知らない!晩御飯の準備してくる!」

 慌てたように立ち上がるも、もちろん許されず、若菜が引き寄せられたのは、彼女の魔王の腕の中。

「だーぁめ。そんなに可愛く拗ねられて、行かせられるモンかって。そうだなー、若菜ちゃんのためならおれ、勇者さまの村の一つや二つ、やっちまうかもしれんもんなー、確かに確かに。くっくっく、お前さんは可愛いねェ。下衆どもの目にとまらぬように、お前を閉じ込めちまうってのも納得だ。あー、喰っちまいてぇ」
「二代目、目がマジだ」
「てめェこら鯉伴坊や、その薄汚ェ手を俺様の若菜さまからはなせ!」

 この娘が十六になっても己との仲を考えてくれるのなら娶るし、娶ったとしても成人までは穢さずに待つと公言している二代目の言葉を、奴良屋敷の誰も信用しなくなったのは、この頃からであった。








...(勇者<魔王)=乙女心...
勇者と魔王が手を携えて真の巨悪に立ち向かうのは、ここから十数年の歳月が必要となるのである。










アトガキ
勇者ゆらが三代目魔王の家に泊り込みで学校の宿題教えてもらいにきたついで、リメイク版のドラ○エ4をやる話の用意もあったりします。
そこから一部抜粋。

「なんで勇者にうちの名前つけたん?!自分の名前つけたらええやん?!」
「大丈夫だよ、ゆらちゃんなら打たれ強いから」
「答えになってへん!」
「だってぇ、ボク、勇者ってガラじゃなくて」
「当たり前やわ、あんたは押しも押されもせぬ和製魔王三代目やんか!」
「ほら、ゆらちゃんが勇者で合ってるじゃないか」

時代は変わったもんですな。ゆらちゃんとリクオ(昼でも夜でも)は仲良く喧嘩してればいいと思う。