今宵はなんだか、静かじゃのう。どうしたんじゃ。
 ……おおそうか、あの娘がおらんのか。
 それで倅、てめぇはふてくされて一人酒かい。酌をしてくれる女がいねぇと、哀しいねぇ。
 しかしそれでそんなにピリピリするぐれぇなら、さっさと娶っちまった方がいいんじゃねぇのかい。

「あのなぁ、親父。親父は生粋の妖だから、そういう細かいところわかんねーのかもしれねぇけどさ、あんまりにもこう、嫁が若すぎると、最近はそういうの、ロリコンって言われるらしいぜ。お袋だって親父のところへの嫁入りは十五だか十六だかだったんだろう?なら、おれだってそれくらい待つさ」

 ふむ。そうじゃのう、たしかに、お珱がワシんところに来たのは、あやつが十五、六の頃じゃったが……。

「だろ?」

 しかし、あの頃の年の数え方は、生まれた時点で一歳。年が明けたらもう二歳。
 じゃったからのう。
 今の数え方だとまだ一歳にもなってないうちから、昔は二歳と数えられたはずじゃ。

「………………」

 今の若菜ちゃんと、それほど変わらないと思うぞ?

「ろ、ロリコンッ!ロリコン親父ッッ!!そんな若い娘っこに何してんだッ」

 何をおめーが赤くなる必要があるんじゃ。
 その若い娘っこにオシメかえてもらって母さん母さんと甘えてぐずって泣いて鼻水を打掛にこすりつけて、時々布団に潜り込んでおったのは、おめぇじゃろうが。
 ホレ、こんなところでぐずぐずしとらんで、若菜ちゃんの布団にでももぐりこみに行ったらどうじゃ。
 こんな月の綺麗な晩なんじゃ、夜這いにはもってこいってもんじゃろう。ん?
 なんじゃ、行かんのか。
 じゃ、ワシが行こう。

「ちょ、待てよクソ親父ッ、なんでてめーが行くんだ!」

 だって一日一回は若菜ちゃんの顔見ないと、寝つけねーんだもん。

「だもんじゃねぇよ、おれだって我慢してんのに……………おれも行くッ!」










「で、来ちゃったの?ううん、嬉しいのよ、会いに来てくれたのは。あ、お爺ちゃん、ちょっと待ってね、そのお茶菓子古いの。新しいの出すから」

 おお、すまんなぁ若菜ちゃん。これよこれ、落雁って奴がワシ、好物でなぁ。
 しかしあれじゃのう、勝手に人の家に入って茶を飲む菓子を食うのはよくあることじゃが、もてなしてくれるのは若菜ちゃんくらいじゃわい。
 最近、自分の家でもはばをきかせてるのは息子の方でなあ、ワシゃあ居場所がなくてのう。

「何を勝手に橋田壽賀子ドラマ風にしてんだ。楽隠居何百年目だよ、てめーは。あ、若菜ちゃん、おれ等すぐ帰るから、かまわなくていーよ。テスト勉強あるんだろうにごめんな、このジジイ、行くったら行く、一目だけでも若菜ちゃんに会わなくちゃ寝られないって、きかなくてさ」
「ふふふっ。ううん、いいんだったら。昨日、セツ子おばさんが入院しちゃってね、一人じゃ寂しかったんだ」
「え。おばさん、元気になったんじゃなかったっけ?」
「うん。すごく元気。元気過ぎて昨日の朝、うーんって店の前で、いつもはしない伸びをしたら、ぎっくり腰になっちゃったの。ちょっと安静が必要なんだって」
「昨日って、じゃ、じゃ、じゃあ、若菜ちゃん昨日の昼飯も晩飯も今日の朝飯も昼飯も晩飯も、全部一人で食ったの?!」
「お昼ご飯は、学校でお弁当食べたから、友達と一緒だったけど。うん、夜ご飯と朝ご飯は、一人だったよ」
「たたたたた大変だッ。すまねぇ若菜、全く気付かなかった。よし速やかに荷物まとめるか」
「え?」
「おばさん帰ってこねぇと、どうせ店、開けられねぇんだろ?だったらいいじゃねぇか、しばらく、おれん家から学校通え。一人飯なんてそんなこと、もうさせられっかっての。遠いなら学校まで送らせるから。あ、安心しろ、朧車でなんて言わねぇよ、白蛇一族ってのが人間の中に居てな、車とか運転手とか融通してくれるんだ。さてさて、そうと決まりゃあ、着替えでも鞄につめるか。若菜ぁ、腐りそうな食いモンとか、そういうの持って行くようまとめとけよー。あと勉強道具もな。部屋、邪魔するぜー」
「だ、だめだったら鯉伴さん、勝手にお部屋に入っちゃダメッ!」
「ほらほら若菜は台所だ居間だと、片付けなくちゃだめだろ〜」
「いきなり下着の引き出し開けないでえぇぇぇッッッ」
「おぉいきなり大当たり。あ、パンダ ――――

 ドゴッ

  ぐふっ」



 倅ぇ、最近はそういうの、セクハラっちゅーらしいぞ。









...ロリコンvsセクハラ...
そ、そうだ若菜、鳩尾ってのはそこだ。変質者に会ったら、そこを狙うんだ、ぞ……。 ←










アトガキ
初代も二代目も、若菜ちゃん中毒です。
コミックス21巻でしたっけ。妖怪脳で珱姫がいつ嫁に来たかの言及がなされてましたが、あれって数え年だよね。
あの頃の数え方で十五とか十六だったってことは、現代の数え方に直すと…………そりゃあ雪麗さん、怒るわヽ(`Д´)ノ

三代目が生まれると、ロリコン属性は消えますがセクハラ属性は残り、かつパワハラが加わります。
しかし氷麗さんがもし年下だったら、ロリコン属性は残ったままだったと思われます。迷惑な一族ですね。