ぐしゃりと、どぶ川に逃げようとしていた蛇を雪女が雪駄で踏みつけ、これが氷となって砕けたのが、最後だった。

「僅かな手勢と侮ったか。我等は奴良組の精鋭よ、雑魚が百鬼どころか千の鬼を引き連れてきたところで、やられるはずがなかろうが」
「ひ、ヒィ〜……た、助かったァ」
「これ算盤坊、情けない声を上げるな」
「あっしは武闘派じゃありやせん、無理を言わないでおくんなまし」

 流石にあちこち傷をこさえてはいるが、そこは幹部を名乗る大物たち、いっせいにかかってきた妖怪たちを物ともせず、瞬く間に駆逐した。逃げ回ってばかりの者もあったのは、ご愛嬌。
 物言わぬ骸となったのも一瞬、あとは風と影にさらわれ塵となって消えた大鬼を見送り、リクオは匕首の血塗れを懐紙で拭い取って鞘へ戻したが、辺りの祟り場が消えてもまだ辺りが薄暗いので、西の空を見たところ、陽はとうに落ち、東の空には上ったばかりの月がある。
 少しこれに見入った後、力瘤を自慢していた一ツ目入道に声をかけた。

「おい、入道さんよ、あんたの愛娘が、境内の桜の木の枝で震えてるぜ」
「なぬ、苔姫?!おおぉ、そうであった!!可哀相に、こんなに暗くなって、さぞ怖い思いをしているだろうに。しかし、なに境内だと?!入れぬ!!土地神ならばいざ知らず、このような由緒正しき天津神の境内に……ぬぅ、苔姫!!苔姫よ、聞こえるか!!もう怖いことはない、その木から降りてこられぬか!!入道じゃ、もう降りてきてかまわんぞ!!」
「いや、迎えに行ってやれよ」
「馬鹿言わないで。あたし等みたいな妖怪が、シノギで守ってあげてる土地神ならいざ知らず、ここは天津神の境内じゃないの。入ったら、まあ、小物でもない限り消滅とまでは言わないけど、結構痛いのよ。長いこといられないし、入って出てきたら、まあ、数日は寝込むわね」
「ふうん、世話が焼けるね。そういうことなら、オレが行こう」
「あんた、昼間、入って平気だったのよね。ほんとに、妖怪なの?」
「さあ」

 苔姫の名を叫ぶ一ツ目入道を尻目に、彼女を御神木へ預けたときと同様、一飛びに桜の枝へ舞い降りる。そこでは、足元で繰り広げられる人ではない者同士の闘いに身を震わせ、垂れ込める闇夜から身を隠そうと小さくしていた苔姫が、ほろほろと真珠の涙を社に奉じ続けているのだった。

「苔姫」

 と、彼女に触れる前に闇から呼ぶと、聞きなれぬ声に、びくりと体を震わせ、

「誰じゃ」

 と、誰何する。
 一度、抑えていた妖気を放ってしまうと、それまでどうやってあの小さな童形の器に押し込めていたのか勝手がわからず、纏わりつく妖気を己でもどうにもできなくて、リクオも、どうしたものか、姿を変じたこの身をさらすべきかと迷ったが、知らぬ声で脅かしてしまうなら、まだ姿が見えた方が、纏う着物などに面影があろうからと、袖口に鬼火を隠してあたりを照らす。

 するとまさしく、ほおずきが内から光る行灯のような、淡い光がぽっと二人を照らし出し、目の前に現れたのが涼しげな容貌の立派な男子であったので、苔姫はまだ幼いが人並みでない顔立ちを、これまでの恐ろしさを忘れ、恥ずかしげに袖に隠した。

「姿は変えておりますが、リクオです。下で父君がお待ちですぜ。さ、掴まんな」
「リクオ、なのか?その、姿は、先ほどとはその、まるで違うが」

 袖の向こうからリクオを見つめ、尚も不思議がる苔姫に、そうだとリクオが思いついたのは、昼間、社務所で苔姫が求めた夫婦円満のお守り、絵馬などの、ちょっとしたものである。荷物になろうからと、リクオが預かっていたもので、袖口に仕舞っていたのだ。
 身の証としてこれを取り出し、苔姫へ差し出す。

「ちょいと乱暴な立ち回りをしましたが、かばっていたので、穢れは浴びておりませんでしょう。しかし、このままオレが持っていては、珱姫さまにお渡しする前に、妖気を浴びて妙なものになりかねない」
「う、うむ ――― わかった。預かろう。その……リクオはやはり、妖怪、なのだな」
「さあ、はっきりとしたことは、憶えていやしません」
「妖怪は、こういった天孫にまつわる神社は厭うと、入道さまに聞いた。だから嫌がるのなら、妾だけが社に詣でるつもりだったのだ。もしや、昼間から我慢しておったのか?であれば、すまぬことをした。許してたも」
「いや、オレは別になんとも。そうだな……割と楽しかった。風情があって、良いところだ。今回は邪魔が入っちまったし、近いうちにまた来よう、苔姫」
「そ、そうか!うん、また来よう!」

 ようやく、銀に化生した妖怪をリクオと信じて、この腕に抱かれた苔姫が境内から出てくると、一ツ目入道は大きな体を小さくしゃがませ、血の繋がらぬ愛娘を壊れ物のように抱き上げ、怖かったであろう、心細かったであろうと撫でていて、人か妖かどちらであるのか検分しようとしていたリクオなど、もう忘れてしまったらしい。
 しかしこの検分騒ぎに乗り気でなかった雪女は、逆にここにきて、この生き物は人なのか、妖怪なのか、いよいよ判らないと興味をもったようで、何の縛りも受けずに境内から飄々と出てきたリクオを、面白そうにじろじろと見つめている。

 和子さまが生まれたばかりのときに、伊勢神宮へ総大将と珱姫がお参りに行ったことはあるが、総大将は己の《畏》で息を殺すようにして詣でてきたと、からから笑いながら言っていた。そのときでさえ、流石は総大将、器が大きいのかただの馬鹿なのかわからぬと雪女は思ったものだ。陽の当たらぬところに住まう妖怪が、太陽そのものを詣でに行くなど、滅してくれと言っているようなもの。
 ところが、リクオときたら、《畏》で身を覆っている様子もなければ、天孫を恐れるような様子もない。
 特に、銀の髪を風に流す今の姿は、彼女にとって興味深いことこの上ない。

「で、リクオ。あんた、総大将の隠し子かなんか?」

 へ?と、リクオのことなどすっかり忘れて、久々の大立ち回りの後、さっさと屋敷へ帰って酒でも飲もうと、今度こそ朧車に乗り込んでいた大物たち、いっせいに振り返った。
 闇夜の中、袖口に鬼火を隠してすっくと立つ立派な男子は、昼に奴良屋敷を出かけていった、すばしこいだけが取り得の童子ではない。かろうじて瞳が瑪瑙の色をさせていた童子姿から変じて、今は立ち上る妖気を抑えもせず、靡く銀の髪は常に妖気で吹き上がっているほど。
 金と銀の違いはあれど、たしかに、総大将の面影がしかとある。
 まさかと思えば思うほどに、見れば見るほどに。

 しかし、当のリクオ本人は、皆が言葉を失ってじろりと見ている前で、昼と同じように遠くを見やりながら、やはり思い出せぬと首を横に振る。

「いや、違う、と、思う。よくわからない」
「本当かい?隠すとためにならないよ」
「本当だよ、雪女の姐さん。どこから来たとか、人なのか妖怪なのかとか、こっちが教えてもらいたいくらいなんだ」
「ふぅん、まあいいけど。屋敷に帰ってあの男を締め上げれば、はっきりすることだしね。まったく、とんだ重労働だったよ、さっさと帰ろうか ――― おや、なんだい、あれは」

 雪女が指したのは、田畑の畦道を黒雲を従えてこちらへやってくる、奴良屋敷の面々だ。
 青田坊、狒々といった、総大将の腹心まで混ざっている。見ている間に彼等はこちらへやってきた。

「加勢に来たぞ、さあ、シマを荒らす連中はどこじゃ。リクオと苔姫は無事か」
「たった今、大鬼会の奴等が化けの皮を脱いで謀反の意をしめしたので、ここら一帯の奴等ともども、返り討ちにしてやったところよ。お前等、来るのが遅すぎるわ。わはははは」
「なんだと、もう残ってはおらぬのか」
「口惜しや、久方ぶりに暴れられると思っておったのに」
「そこらの藪を突っつけば、まだ何か隠れてはおらんのか」
「アンタら ――― 誰に知らされたんだい、ここでオレ達が襲われてるって」

 無事を喜び、出遅れたのを悔やむ、途端に賑やかになった一同、聞きなれぬ男子の声が冷水のように耳に入ってきたので、水を打ったように静まり返った。
 誰じゃ、あれは。妖艶、かつ立ち上るあの妖気、立派な妖じゃのう。
 総大将に似てはおらんか。
 似ておるというか、瓜二つではないか。隠し子か。ありうる。
 え、リクオ?!あれが?!なんと、奴は化生するのか。

 ざわめく妖怪たちに、もう一度、リクオは問う。

「誰に、知らされた。アンタ等に知らせたそいつは、ここにいるのかい」
「誰って ――― おい、お前だったな」
「いや、あっしはこいつから聞いて」
「え?でもおいらは天井裏の大蛇から」
「いえいえ、あたしゃ大声でそう知らせてる奴がいたから」
「まどろっこしい!最初にこれを知って屋敷中に知らせた奴、前に出ろ!前だ!」

 氷が一変、炎と変わったリクオの一喝。
 ここへ着いた本家の一行は、冷や汗をかきながら互いを見るが、不思議なことに、誰もが首をかしげるばかり。

「するってぇと、今このとき、奴良屋敷はてんで手薄ってわけだな ――― 畜生、謀られたか。手前等、彼奴等の狙いはオレじゃねぇ、奴良屋敷総大将、そして珱姫さまと和子さまだ!乱世が片付いて平和ボケしやがったか、みっともねぇ!」

 なんだと?!と、色めきたつ者どもにはもう目もくれず、リクオは二、三歩助走をつけると、そよと吹いた夜陰の風に乗って行ってしまった。

「な、なんだと?!いやたしかに何者かに諮られたか……」
「まさか、総大将ともあろう御方が、たとえ屋敷が手薄になろうと、そうそう遅れはとるまい」
「ともかく、屋敷へ急ぎ戻るぞ!」



+++



 流石に奴良組総大将、屋敷の大物たちが信じる通り、いくら手薄なところを狙われ狼藉者に踏み込まれたとて、そうそう遅れは取られない。傍に控えていた牛鬼、木魚達磨、カラス天狗とともに、襲撃した者どもを、あちらから殴られにやって来てくれたと嬉々として迎えうたれておられるが、泡を食う様子など微塵もない。
 腹心たちもそれは同様で、前触れもなく押し寄せてきた輩に臆することなく、果敢に立ち向かう。

 これまでならば、それで何の憂いもなかった奴良組だが、奥の方からあがった悲鳴が、一同を慌てふためかせた。妖怪であれば小物とは言え、床下や天井裏、どこへでも逃げ隠れてひっそりと災いが通り過ぎるのを待てるものを、この屋敷には、それができない者があると、ようやく思い至ったのだ。
 人間である珱姫には、ただ息を潜めているぐらいしかかなわず、まして、まだやや子の和子さまには、それすら望めない。

 相手を下すための闘いしか経てこなかった奴良組一家には、何かを、それも己の身すら守れぬ誰かを守りながら闘うなど今までなかったことで、不幸なことには、これは総大将も同じであった。
 我に返り、ちいと舌打ち一つすると、血相を変えて奥へ駆け抜ける。
 目の前を塞がるは、たちまち切り伏せ、蹴飛ばし、殴り除ける総大将を、腹心どもが追う。
 こうも奥は遠かったか、と思う長い廊下を駆け抜けて、半ば吹き飛んだ襖が左手のやや前に見えてくると、そこから和子さまの、胸にせまるような泣き声が聞こえてくるではないか。

「珱姫!鯉伴!」

 いつもなら、逃げ回るか、せいぜい敵の足元に纏わりつくだけの小物たち、必死に抵抗したのだろう、畳の上に転がりまさに満身相違。その中心には、腐れた錆色の、大きく長細い半透明の臓腑がそのまま顔をつけ手足をつけたようなものが、でん、と居座っている。その体の大きさときたら、奥の座敷を丸ごと占めているほどだ。
 珱姫はこれの、引き伸ばしたような手にねっとりと絡め取られており、大きな口元から必死に顔を背けて、腐れた息から逃れんと、また和子さまをしかと胸に抱いて、妖怪の瘴気から守らんとされていた。

「おぉ、来たなぁ、奴良組のぉ」
「てめぇ ――― 何モンだ、名乗りな!」
「衾ってぇもんだぁ。わはは、人間の女ぁ娶ったとはぁ聞いてたけどぉ、なかなかぁいい匂いぃする女だなぁ。おれぁ、ちょいと手伝いにぃ来ただけなんだけどぉ、好きなもんあったらぁ、持って帰っていいって言ってたからぁ、これぇ、持って帰ろうかなぁ。
 おっとぉ、動くなぁ。動くなぁよぉ。おめぇが強いってぇ話はぁ、知ってぇるぜぇ。サシでやろうなんざぁ、考えちゃぁいねぇよぉ。ただちょいとぉ、そうさなぁ、おれぁこれからぁ、こいつを持ってぇ帰るけどぉ、ここに残った手下の奴等がぁ帰ってきたとき減ってたらぁ、減ってたぶんだけぇ、こいつ等をぉ殴りつけてぇやろぉかなぁ。なんだっけぇこれぇ、人間がよくやってんのをぉ、見たのよぉ、人質ってぇ言うんだっけぇ?」

 わさり。彼奴の眷属であろう、やはり五臓六腑がそれぞればらばらになって手足を蠢かせたようなものが、座敷の四隅、畳の縁や目、障子の割れ目などから、洪水のように溢れ出す。
 珱姫と和子さまを手中に取られ、相手の懐へ踏み込もうにも、衾の注意が全て我が身に降り注いでいるのでは、いかな総大将とて迂闊に手が出せぬ。今までの意趣返しとばかり、この五臓六腑が首をしめつけ頬や腹を手加減なく殴ってくるからたまらない。
 どう、と倒れると、「妖さま!」珱姫の悲痛な叫びと、和子さまの切ない泣き声が追い、衾の、ぴちゃぴちゃという吐瀉物を啜るような笑い声が座敷に響く。

 流石の牛鬼も、周囲を囲む者どもの多さと、今日に限っての屋敷の手薄に、どうやら謀られたようだと臍をかむ。

「へっへっへぇ!おもしれぇ、おもしれぇよぉ!奴良組大将がぁ、どた!ってぇ倒れたぁぁ!へっへっへぇ!」

 万事休すか。
 思われたこのとき、月を背にして躍り出た、一つの銀の影があった。

「へっへっへ ――― へぁ?」

 逆手に持った匕首が閃くと、ぷつりと半透明な指が上から下まで切り裂かれ、和子さまを抱いていた珱姫は、あわやそのまま畳に叩きつけられるかと思われたが、とっさに身を起こした総大将が、今度ばかりはさせるかと、両腕にお二人を抱えられ、ほうと息をついた。

 この好機を先駆けた仁義の漢はどこのどいつかと、喜んで顔を見上げてから、総大将も、そしてこの腕に抱かれてようやく安堵した珱姫も、僅か目を見開いた。次に、顔を見合わせる。視線のみの会話を訳すなら、「妖さま、鯉伴よりも先に、どこぞに、お子が?」「いいや、ワシはとんと憶えがないぞ。そういうことになると面倒だから、気をつけておったし。ごむもつけておった」「ごむ?」となるのだが、ともかく総大将が少年のようなお顔で、ふるふると首を横に振って見せると、今度は夫婦二人して、あれはどこの誰であろうと見つめるのだった。

「女子供を人質にして、総大将のタマを取ろうたぁ、情けねえ。それが仮にも、乱世を生き抜いた妖怪任侠のすることかい。てめぇなんぞ、総大将の御手を煩わすこともねーや、オレが相手になってやる、とっととかかってきて、とっととやられちまいな」
「な、なんだぁ、おめぇぇぇぇ?!」
「奴良組一家の、単なる居候だよ。おめーみてえな外道にゃ……おっと、なんだこのひでぇ臭い。てめーか?……おめーみてぇな腐れ外道にゃ、ちょうどいい相手だろう」
「ばかにぃするかぁぁぁ」

 切り落とされた指から腐った臓物の臭いを散らかしながら、尚残りの手足を鞭のように振り回すからたまらない。敵も味方もなく、巨大な体をむずがるように揺らすので、屋敷の屋根がみしみしと音をたてた。
 自分だけならまだしも、腕に抱える珱姫や和子さまに、抜け落ちた天井の木枠などが当たっては大変だ。総大将は二人を抱えて座敷を一歩出ると、廊下に座らせた二人を腹心にまかせ、己は再び座敷の中へいざり出た。
 総大将は、そこで気づいた。銀の髪をなびかせる美丈夫が、どうやら己がリクオにくれてやった、あの匕首を使っている。それだけではない、身にまとう水干袴も、昼に出かけたリクオのもの。

「お前、もしや、リクオなのか?!」
「なに、リクオ様 ――― ?」
「小大将、お帰りあそばした?」
「小大将、リクオ様、お願い、そいつをやっつけて!」
「うわぁんリクオ様ぁぁ、そいつがボクのこと蹴ったぁぁ、踏んだあぁぁぁ」

 ただの誰何であったのに、効果覿面。
 畳の上に転がるばかりで、ぴくとも動かなかった小物妖怪たちがいっせいに、がばと起き上がったのだ。子供のように泣き喚き、地団駄を踏み、ぎゃあぎゃあと喚くこれらは、座敷の中をどたんばたん、音をさせてのたうつ腐れ蛇を、我等の小さき大将に加勢せよとばかり、いっせいに取り囲んでぽかぽかとやり始めた。
 一体ずつは何のことはない小物妖怪でも、束になってちくちくとやるから、衾もかゆいやら痛いやらくすぐったいやらで、さらにのたうちまわる。
 その上、これに紛れて時折、銀色の光のようなものが、瞬時姿を現して、ぐさりと深い傷を負わせてくるのだ。これが痛い。滅法痛い。銀色の光はすばしっこく、手を伸ばしてもするりと抜ける。

「ええい、ええい、わらわらと、小癪な ――― かくなる上は、屋敷ごと踏み潰して ――― 」

 衾の怨念は、最後まで形にならなかった。
 ようやくリクオに追いついた、総大将の百鬼夜行が、妖気を纏ってどろりと八方を囲んだのだ。

「総大将、無事かえ?」
「あれまあ、小物どもがきばっておるぞ、なんとかわいらしい」
「おうてめぇら、いいところに帰ってきた。そろそろ、お客さんがお戻りだぜ」

 ぶわり、総大将の金の毛並みが妖気に吹き上げられ、衾の目の前から、全ての音と光が、消えた。
 金の光と見えたは、ほんの一瞬。まばたきの間に、掻き消えた。目にちらとも映らぬ。

 後の始末は、語るほどのこともなし。